循環するということ。

深見木藝深見 昌記さん

木を加工し、暮らしに活きる道具として
形を変える家具職人。
そのひとりである深見さんは、
人と自然の関係性をどのように考えているのでしょうか。
自然素材と向き合い、木を知り尽した
深見さんだからこそわかる、
現代の暮らしにとって大切なことをお伺いしてきました。

● プロフィール

「ものづくりがしたい」という想いでサラリーマンから転身。江戸指物の家系の木工藝家・前田純一氏に3年半師事し、手仕事と自然素材を大切にした家具工房『深見木藝』を設立。オーダーメイドのオリジナル家具を製作する他、各地の展示会への参加、各種メディアに紹介されるなど活躍中。

心のやすらぎを与えてくれた伝統産業品との出逢い 心のやすらぎを与えてくれた伝統産業品との出逢い

 話すことがあまり得意ではないという深見さん。子どもの頃からものづくりが好きで、物を作って自己表現することへの憧れはあったものの、それを仕事にするというイメージはなかったそうです。
 大学時代はスペイン語を学び、卒業後は一般企業に就職します。しかし、次第に会社勤めを続けていくことに疑問を感じ、将来について真剣に考えるようになりました。「自動車整備工場を営んでいた父を見てきて、大変でもやりがいのある自営業に魅力を感じました」という深見さん。
 一生打ち込める仕事に就くことにこそ、生きる喜びがあると気づいた時、子どもの頃に夢中になったものづくり、ものを作って自分を表現したいという思いが甦ったのかもしれません。「手に職をつけ、独立しよう!」と決心し、入社後一年ほどで退職。そして、木工の技術を習得するため職業訓練校に通い始めたそうです。

 なぜ木を扱う技術職を目指そうと思ったのかと尋ねると、「もともと北欧家具のデザインが好きで、日本の伝統工芸にも興味があったという理由もありますが、ものづくりとして木工は、子どもの頃に図工や技術の授業の経験もあったからか始めやすいかなと思ったんです」。また、箸のような小さな日用品から大きな家具まで、木で作られる物の種類は豊富にあります。それに合わせて木工の技法や職業の選択肢が多いため、職人として自立できると考えたそうです。
 鉋(かんな)などの手道具の技術を学ぶにつれ、木工の面白さにますます引き込まれていった深見さんは、修了後に葬具店へ就職し、祭壇や棺の製作に携わります。そして、木工の世界に自身を表現でき、一生を捧げられる仕事となる可能性を見い出していました。

心のやすらぎを与えてくれた伝統産業品との出逢い 心のやすらぎを与えてくれた伝統産業品との出逢い

 葬具店で働きながらも、木工の職人として独立したいという気持ちが強くなっていた時、ひとりの木工藝家・前田純一さんの作品を目にし、強い衝撃を受けます。100年続く江戸指物(※)の家系である前田さんが作る家具は、手道具による伝統的な技法を守りながらも、木を鉄や真鍮、銅といった異素材と組み合わせる斬新な作風でデザインはモダン。 自分がやりたかったことはこれだ!と確信した深見さんは葬具店を退職し、長野県松本市郊外の山間にある前田さんの工房を訪れ弟子入りを志願します。その僅か一週間後に、住み込みで修業を始めたというから驚きです。
「作業は主に先生(前田さん)の作品づくりの手伝いでした。木の選び方、材料のどの部分を椅子の座面に使うとか、鉋の削り方など、手取り足取り教えてもらうのではなく、先生のやり方を見て覚えるんです」。

 修業は技術を学ぶだけではありません。数人の弟子が寝食を共にしながら、交代で3度の食事を作り、家の掃除や洗濯などの家事をします。休日は日曜だけで給料もありません。
 そんな過酷と思える3年半の修業時代を笑いながら振り返ることができるのは、そこで得た経験が財産となり、今の仕事に活かされていることの何よりの証。
 美しく、時には厳しい信州の大自然の中で、規律ある生活を送りながら師匠の技と感性に触れ、素材となるさまざまな木と向き合ったことは、名古屋で独立した今も大きな影響を与えているそうです。

※江戸指物
指物とは、接合に釘などを使わずにホゾ(木材の端に作った突起)を組み合わせる木工の技法もしくは家具や調度品の総称。江戸指物は、日本にいくつかある指物の流派のうちの1つで、徳川幕府の時代に江戸で発展した伝統工芸品。 

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